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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)8216号 判決 1986年9月08日

兵庫県伊丹市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

斎藤護

大阪市<以下省略>

被告

株式会社ロイヤルジャパン

右代表者代表取締役

Y1

大阪市<以下省略>

被告

Y1

大阪市<以下省略>

被告

Y2

大阪市<以下省略>

被告

Y3

主文

一  被告らは各自原告に対し金三三〇万円及びこれに対する昭和六〇年九月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し金三四五万円及びこれに対する昭和六〇年九月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  被告株式会社ロイヤルジャパン(以下「被告会社という。)は、昭和六〇年四月二五日に設立された海外商品先物取引の受託、代行等を目的とする会社であり、被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、被告会社の代表取締役であり、被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、同社取締役であり、被告Y3(以下「被告Y3」という。)は、同社営業部課長である。

(二)  被告会社の女子従業員は、昭和六〇年八月二四日午前一〇時ころ、原告に対し、「株式のことで一度担当者から話だけでも聞いて下さい。」と電話をかけて面会の約束を取り付けた。そして、同日午前一一時ころ、被告Y3が原告宅を訪問し、原告に対し「一五〇万円出せば一か月くらいで確実に二〇万円もうかります。」「銀行の定期預金を担保に借りればよい。短期間で返せるし、金利などもうけに比べれば問題ではない。」などと必ず利益を得られる旨強調し、シカゴ・マーカンタイル取引所における株価指数の先物取引の注文を執拗に勧誘した。原告は、商品取引について何らの知識、経験もない昭和九年生まれの女性であり、被告Y3の説明により、安全かつ確実に利益を得られると信じ、指示されるまま売買取引契約書に署名捺印した(以下「本件取引」という。)。被告Y3は、本件取引にあたり、右契約書の内容説明及び本件取引の仕組みや危険性等本件取引開始にあたって原告に知らされるべき重要事項の告知を全くしなかった。

(三)  原告は、同月二六日、原告宅において、被告Y3及び同人の上司である訴外A(以下「A」という。)の両名に本件取引の委託保証金として一五〇万円を支払い、同月二七日午後八時ころ、右両名から電話で「五ロットが一セットになっているのであと一ロット買ってもらえないか。」と追加出資を持ちかけられたため、同年九月四日、Aに委託保証金としてさらに一五〇万円を支払った。

2  本件取引は次の諸点において違法である。

(一) 公序良俗違反

(1) 商品先物取引は、転売、買戻しによる差金、決済を目的とし、少額の証拠金を支払うことにより多額の思惑取引ができる投機的相場取引であって、売買注文の仕組み、市場システム、値動きの予測、用語などがいずれも高度に専門化されているため素人には理解困難な取引であるところ、被告会社が受託している海外商品先物取引は、外国為替相場や国際間の複雑な政治的経済的要因が作用するうえ、時差や地理的関係から、委託者において当該取引市場における相場の動静を把握したり。委託注文の市場への経路や売買の成否を検証することが著しく困難であるから、このような投機的専門的取引に伴う危険性は計り知れない。

しかるに、原告のような何一つ情報源を有しない者が海外市場における先物取引について、的確な値動きの予測を立てて臨機応変に売買取引の指示をなしうる可能性は、全くない。

(2) したがって、先物取引を行うに必要な知識、関心及び資金力を持たない一般人に対し海外先物取引を勧誘し、注文を受託すること自体、商取引としての社会的許容範囲を逸脱しており、公序良俗に反するものである。

(二) 勧誘の欺罔性

被告Y3及びAは、前記のような海外先物取引の有する危険性、困難さにもかかわらず、先物取引について全く知識も経験も有しない原告に対し、右危険性を告知することなく、かえって、必ず利益を得られるかのごとき詐言を弄して、原告をしてその旨誤信させ、委託保証金名下に後記のとおり金員を騙取したものである。

(三) 業務執行の欺瞞性

被告会社は、顧客の無知に乗じ、のみ行為又は向い玉を建てる方法で顧客を損失に導き、莫大な収入を得ようとしていたものであり、被告会社の業務執行は、それ自体巧妙な金員騙取の手段といわなければならない。

被告会社の手口は、まず、商品先物取引の何たるかさえ知らず、したがって被告会社の言いなりに取引せざるをえない原告のごとき素人を違法な勧誘行為により海外商品先物取引に引き込み、事実上被告会社の判断で原告ら顧客の建玉をなすことである。次に、被告会社は、自己のために向い玉を建てたうえ、顧客が取引中止を申し出ても、「心配はいらない。これから必ず上がる。」「今止めることはない。」などと言葉巧みに顧客の解約意思を遮断して取引を拡大し、原告ら顧客の資金を放出させ追加保証金が捻出できない状態にしておいて、結局顧客にとって最も不利な相場の値動きの時点で建玉の手仕舞いを余儀なくさせ、顧客を確実に損計算に終わらせ、顧客の保証金を自己の益金として取得しているのである。

(四) 外国為替及び外国貿易管理法違反

株価指数を対象とする海外商品先物取引は、外国為替及び外国貿易管理法二〇条三号に該当し、同法二一条一項一号により外国為替公認銀行が業として行う場合を除き、大蔵大臣の許可を受けなければならないところ、被告会社は、右許可を受けておらず、同法に違反して業務を行っているものである。

3  右2のとおり、被告会社は、組織ぐるみで違法な海外商品先物取引の受託を行っている業者であって、被告会社の業務執行自体が不法行為に該当するものであるところ、被告Y1及び被告Y2は被告会社の役員として右の業務を企画、推進してきた者であり、被告Y3は被告会社の営業部課長としてこれに加担し、原告との本件取引においても勧誘、金銭の受領に携わった直接の不法行為者であるから、被告らはともに民法七〇九条により、被告会社については、予備的に同法四四条または同法七一五条一項により原告が被った損害を賠償せべき義務がある。

4  損害 合計三四五万円

(一) 原告は、被告会社に対し委託保証金名下に合計三〇〇万円を支払い、右相当額の損害を被った。

(二) 原告が本件訴訟を遂行するには弁護士への訴訟委任が不可欠であるところ、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、右(一)の損害額の一割五分にあたる四五万円が相当である。

5  よって、原告は、被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償として、被告会社については予備的に民法四四条又は同法七一五条一項に基づき、三四五万円及びこれに対する原告の被告会社に対する金員交付の最終日である昭和六〇年九月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否

1  請求の原因1(一)の事実を認め、同1(二)の事実のうち、被告会社の女子従業員が原告に電話をかけたこと、被告Y3が原告宅を訪問したことを認め、その余の事実を否認し、同1(三)の事実のうち、被告Y3及びAが原告宅において本件取引の委託保証金として一五〇万円を受け取ったこと、原告に追加出資を持ちかけたことを認め、その余の事実を否認する。

2  請求の原因2ないし4の各事実はいずれも否認する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一八号証

2  原告本人、被告会社代表者兼被告Y1本人

二  甲号証に対する被告らの認否

甲第八、第一八号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立をすべて認める。

三  職権

被告Y3本人

理由

一  被告会社が昭和六〇年四月二五日に設立された海外商品先物取引の受託代行等を目的とする会社であること、被告Y1が被告会社の代表取締役であり、同Y2が同社取締役であり、同Y3が同社営業部課長であること、請求の原因1(二)の事実のうち、被告会社の女子従業員が原告に電話をかけたこと、被告Y3が原告宅を訪問したこと、同1(三)の事実のうち、原告が自宅において被告Y3及びAに対し本件取引の委託保証金として一五〇万円を支払ったこと及び追加出資を持ちかけられたことはいずれも当事者間に争いがない。右争いのない事実に成立に争いのない甲第一ないし第三号証、第一三ないし第一七号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一八号証、原告、被告会社代表者兼被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び被告Y3各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、競馬場でパートタイマーとして働きながら自宅で病気療養中の夫と暮らしている昭和九年生まれの女性であり、本件取引以前に商品取引はもちろん株の売買をした経験もない。

被告会社は、クルードオイル、コーヒー、ココアなどの海外商品先物取引の受託代行のほか、米国の債券格付け会社であるスタンダードアンドブアーズ社が公表するニューヨーク証券取引所上場株五〇〇種の株価平均値を指数化した「S&P500」と称する株価指数の先物取引の受託、代行を業として行っている。

2  「S&P500」の先物取引とは、株価指数一ポイントを五〇〇ドルに換算して先物を売買するものであり、一九八二年(昭和五七年)に米国シカゴ市の取引市場に金融商品として登場したものであるが、商品としての実体がない抽象的な数値が投資の対象とされているため、差金決済によらざるを得ず、危険性が高く専門的知識を要する海外商品先物取引の中でも一段と投機性の高い取引として位置付けられる。それゆえ、この取引に参加するためには最低六〇〇〇ドルの委託保証金の預託が必要であり、取引業者も厳しく限定されている。

被告会社が行っている「S&P500」の先物取引の受託の仕組みは、顧客の売買取引注文を受注し、委託保証金(一枚一五〇万円)の預託を受けること、この注文を被告会社と委託契約関係にある国内の取次業者ロイヤルリサーチ社に送り、同社が右注文をテレックスで国外の業務契約取引員であるプリデンシャルベーチェ社に申し込み、同社によりシカゴ・マーカンタイル取引所において右注文が執行され取引が成立すると、同社はロイヤルリサーチ社にテレックスで売買結果を報告し、被告会社に売買報告書を郵送する。被告会社はこれを顧客に交付するというものである。

4  被告会社は、「S&P500」の取引について、女子従業員があらかじめ無差別に電話をかけて株式取引についての関心の有無を尋ね、興味を示した者を営業部員が訪問して取引の勧誘を行うという方法で顧客を獲得しているが、昭和六〇年八月二四日午前一〇時ころ、被告会社女子従業員が原告宅に電話し、株式に関心があると答えた原告と面会の約束を取り付けた。同日午前一一時ころ、被告Y3が原告宅を訪問し、「一五〇万円出せば九月上旬ころまでの短期間に二〇万円もうかります。」などと述べ、本件取引が投機性、危険性を有し、専門的知識を必要とすることについては敢えて言及せず、逆に確実かつ有利な利殖方法であるかのように短期間で利益が得られるという点を強調して説明し、さらに、定期預金を担保に銀行から借りられる、短期間のうちに返済すれば金利が多くならず預金を解約するよりも得であるなどと出資金の調達方法についてまで進言して一時間近く熱心に「S&P500」の取引に勧誘したため、原告は、被告Y3の説明をすっかり信用して同人持参の売買取引契約書(甲第一号証)の委託者欄に署名押印し、同人に勧められるまま「S&P500」一枚、限月昭和六〇年一二月末日の買注文を行った。被告Y3が説明している際、取引関係書類の「S&P500」の文字を指さしたことがあるものの、原告は「S&P500」の意味はおろか委託保証金一五〇万円を預託することにより最大限一五〇〇万円程度の売買が可能であることについても何ら説明を受けないまま、漠然と一五〇万円で株式を買うものであると理解していた。右契約書の表面には国際商品取引の手順が示され、裏面には、国際商品取引委託契約書、委託保証金細則、リスク開示告知書、注文同意書等が併せて印刷されており、書面上は原告がこれらの文書を受領了解のうえ自己の判断で売買注文をしたことになっているが、原告は、被告Y3から本件取引の仕組みや右契約書の記載内容について説明を受けていないし、これらを十分理解したうえで署名押印をしたものでもない。

原告は、同年八月二六日ころ、郵便貯金七〇万円を引き出し、さらに銀行の定期預金を担保に八〇万円を借り受けて合計一五〇万円を準備し、同日午前一〇時ころ原告宅を訪れた被告Y3及び当時被告会社営業部次長であったAに委託保証金として一五〇万円を交付し、引き換えに預り証(甲第二号証)を受け取った。

翌二七日午後八時ころ、被告Y3から原告宅に電話があり、「五ロットが一セットになっている、あと一ロットあれば話が成立するので一ロット買ってくれないか。」と追加注文を持ちかけたのに対し、原告が金がないと断わると、今度はAが電話に出て一方的に話を続け、「どうしても買ってもらわなければだめだ、何とか努力してほしい。」などと執拗に追加注文を求めたので、原告は先の出資金が助かるのなら仕方がないと考えて一五〇万円の支払を了承し、銀行の定期預金一五〇万円を解約してこれを昭和六〇年九月四日午前一二時ころ原告宅でAに交付し、引き換えに預り証(甲第三号証)を受け取った。

その後の同月上旬ころ、被告Y3から「今が一番いい時期だ、九月一〇日ころに決算しましょう。」と原告に利益が上がっているかのような連絡があり、原告は同人を信頼して適期に売却決済してくれるものと思っていたところ、同月一八日ころになって午後一〇時ころ、Aから「株の値が半分以下に下がった。あと二口分出資すれば元どおりになる。」との電話連絡が入った。思いもよらぬ事態の悪化に驚いた原告は、これに抗議するとともに追加出資を拒絶したところ、同月二〇日、被告会社管理本部副部長と名乗るBが原告宅に訪れて本件取引をクルードオイルの海外先物取引に切り換えたら多少なりとも損を取り返せるであろうと説明したため、原告は損害を最小限にとどめたい一心で右Bの言辞に従った。

被告Y3本人尋問の結果中には、原告に対して、本件取引が米国優良企業五〇〇社の株の平均指数を売買する海外の取引であること及び売買取引契約書の裏面記載の委託保証金細則のうち委託追加保証金の支払について説明した旨、持参した「S&P500」の取引に関するパンフレットを原告に示して本件取引の仕組みを説明した旨並びに追加注文を勧誘したのはAのみである旨の供述部分が存するが、右各供述部分はいずれも原告本人尋問の結果及び前掲甲第一八号証に照らし措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

仮に、被告Y3が原告に対し本件取引の内容、仕組み及び委託追加保証金の支払などについて一応の説明をしたものであるとしても、本件取引の対象が右2で認定したとおり新種の、極めて抽象的な国際金融商品であり、本件取引自体が難解であること、原告が商品取引について全くの素人であること、また、被告Y3及び同Y1各本人尋問の結果によれば、被告会社は原告のような素人に対しても広く「S&P500」の取引勧誘を行っているにも拘らず、顧客に対し取引内容を適確に伝えて理解を促すための勧誘方法、説明事項等を営業部員に指導、監督する努力がほとんど払われていないこと並びに被告Y1及び被告Y3自身「S&P500」の取引の仕組みや売買取引契約書の記載内容の理解が不十分であることが窺われ、これらの事情に鑑みれば、被告Y3が本件取引の勧誘にあたり、素人である原告が本件取引の内容を理解するに必要かつ十分な説明を行ったものとは到底認め難い。

二  成立に争いのない甲第四ないし第七号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第八号証、被告Y3及び同Y1各本人尋問の結果を総合すると、被告会社の組織は、営業部門と管理部門に大きく分かれ、営業部門では本件取引当時、営業部次長以下約八名の営業部員が顧客の勧誘、売買注文の受注、委託保証金の受領等を行っており、管理部門では管理部長の指揮監督の下に委託保証金の管理市場相場の報告、顧客の取引状況の管理等を行っていること、被告会社は、顧客の売買注文を前記ロイヤルリサーチ社に送る際、かなりの頻度で顧客の注文にかかる建玉と同種、同数量、同限月の反対売買の関係に立つ被告会社の自己玉(いわゆる「向い玉」)を建てており、その結果顧客と被告会社の利害が終始相反する関係となる操作を行っていること、右向い玉の操作は顧客に全く知らされていないこと、「S&P500」の取引については、預託された委託保証金を他に送金することなく被告会社において管理し、人件費等の諸経費の支払に充てて費消してしまったこと、被告Y3は被告会社において一〇名前後の顧客を海外商品取引に勧誘し注文を受けているが、取引により利益を上げこれを現実に取得した顧客はいないこと、被告Y1、同Y2、同Y3をはじめ被告会社の役員及び従業員の大半が近時違法な営業行為により多数の顧客に損害を被らせて倒産した海外商品先物取引業者大栄貿易株式会社の役員又は従業員であった者で占められており、右取引業者において得た知識経験、営業方法等を活用して被告会社の業務執行が行われていること等の事実が認められ、他に右認定を覆すに足る証拠は存しない。

三  前記一、二で認定の事実を踏まえて被告らの不法行為責任の有無を検討するに、被告会社の業務執行の実態は、およそ顧客の判断に基づく売買注文を受託代行し、主にその手数料収入により利益を上げるという取引仲介業者の正常な業務執行とは掛け離れ、全くの素人を言葉巧みに海外商品取引に勧誘しては顧客に隠れて多くの場合に向い玉を建て、本来取引差損金の支払担保として海外の取引業者ないし取引市場に送金預託すべきものと解される委託保証金を一切送金せず、被告会社の経費に費消するなど預り金であるはずの委託保証金を取引の当初から被告会社の利益とする目的で業務執行をしているものと認めるに難くない。右の業務執行の実態は、原告の本件取引においても異ならず、被告会社は、海外商品取引の事情に通じない原告を言葉巧みに本件取引に勧誘し、無知に乗じて取引を拡大させ、次々と委託保証金を徴収し、他方では被告会社の計算で向い玉を建てておきながら、当初は原告に利益が上がっているように見せかけて原告を信用させ、株価指数が下落して原告に不利となるや時期を逃さず原告に取引の手仕舞いを余儀なくさせ、原告に損害を与えると同時に被告会社の利益を取得するに至ったという取引経過が容易に推認されるのである。

そして、このような被告会社の業務執行自体が被告会社の営業方針に他ならず、被告会社の役員をはじめ直接顧客の勧誘を行った営業部員に至るまで右営業方針を容認したうえ会社組織ぐるみで不法行為を行っていたものと解するのが相当であるから、被告会社は、企業自体の不法行為として民法七〇九条に基づき、被告Y3は本件取引に直接関与したのみならず被告会社の営業部課長としてその業務執行に加担してきた者として、被告Y1及び同Y2はいずれも被告会社役員として被告会社の業務を企画、推進してきた者として被告会社とともに共同不法行為者として民法七〇九条、七一九条に基づきそれぞれ原告が被った損害金額を賠償すべき義務がある。

四1  前記一4で認定したとおり、原告は、本件取引の委託保証金名下に合計三〇〇万円を交付しているところ、右相当額の三〇〇万円の損害を被ったことが明らかである。

2  弁護士費用については、本件事案の内容、本件訴訟の経過その他諸般の事情を斟酌した結果、右損害額の一割である三〇万円をもって本件不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

五  よって、原告の本件請求はいずれも、被告ら各自に阻し、金三三〇万円及びこれに対する原告の被告会社に対する金員交付の最終日である昭和六〇年九月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条を適用し、仮執行の宣言については、主文第四項に掲記の限度で相当と認め、同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 市川正巳 裁判官 野島香苗 裁判長裁判官辻忠雄は支障のため署名押印できない 裁判官 市川正巳)

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